コラム2026.10.07

社長の承認待ちで顧客への回答が止まる——任せる範囲をどう決めるか

顧客へ回答したいのに、最後は毎回、社長の返事待ちになる。社長は「現場で決めてほしい」と思い、現場は「後から覆されるなら先に聞こう」と考えているかもしれません。まず確かめたいのは、止まっている判断の中身です。

任せる範囲は、役職名だけでは決まりません。必要な情報を持ち、その条件で決めてよい権限があり、迷ったときに相談できる。その組み合わせを、一つの顧客対応から作ります。ここでは日常業務の判断を扱い、法的な代表権や契約権限を定める解説はしません。

社長に戻ってきた案件を並べる

最近、社長へ承認を求めた顧客対応を集めます。誰が、何を決めようとして、どの情報が足りず、何時間・何日待ったか。最終的に社長が何を根拠に判断したかも記録します。

いま回答が止まっている案件には、確認できていることと未確定のことを分け、次に連絡できる時点を顧客へ伝えます。承認が必要な条件まで、その場で約束してはいけません。判断を任せる仕組みづくりと、目の前の顧客を待たせたままにしない対応は、並行して進めます。

仕入先の回答がなく納期を決められなかったのか。原価は分かるが値引きの範囲が決まっていなかったのか。利益は出るが、優先顧客への約束とぶつかったのか。最後のケースでは、早く承認するだけでは足りません。誰へのどんな約束を優先するかを経営が選ばなければ、担当者ごとに違う答えを顧客へ返す可能性があります。この違いを飛ばして「もっと主体的に」と求めても、現場が何を変えるべきか分かりません。

まず一種類の判断を任せる

繰り返しが多く、影響範囲を把握できる判断を一つ選びます。そして、次の項目を社長と担当責任者で書き合わせます。

  • 判断する人と、不在時に相談する人
  • 判断に必要な情報と、その情報を得る相手
  • 現場で決めてよい条件
  • 必ず上位者へ戻す条件
  • 決定後に残す記録と、見直す時期

金額の上限だけでなく、納期、品質、既存顧客への影響も扱います。どの顧客への約束を優先するかが曖昧なら、権限を渡す前に、その方針を経営で決める必要があります。

OpenStaxの教科書『Introduction to Business 2e』は、権限委譲を、組織の指揮系統で一定の権限と責任を部下へ割り当てるものとして説明しています。[1] 一般的な概念の説明で、日本の中小企業での効果を測った研究ではありません。上の項目は、日常の判断を任せるための実務提案です。

任せ始める前に、過去の案件を使い、社長と担当責任者が別々に判断して理由を比べます。結論が違ったら、使った情報が違うのか、守るべき条件の解釈が違うのかを確かめる。実際の依頼を受ける前に、基準の曖昧な箇所を直すための試行です。

任せたあと、社長も理由を残す

任せた範囲内の決定を社長が変更するなら、何が当初の想定と違ったかを説明します。新しい事実が出たのか、条件が曖昧だったのか、方針が変わったのか。理由を残さず結論だけ変えると、次の判断に使う材料が残りません。

担当者が条件を満たす情報を集められない場合は、教育や情報へのアクセスも見直します。責任者の業務量が過大なら、権限を増やすだけでは対応しきれません。判断待ちの時間、社長への差し戻し理由、顧客への再説明が必要になった案件を追い、任せる範囲を調整します。

経営会議で方針を決める方法は経営側の合意に、理念を現場の判断へ落とし込む方法は共通基準の運用につながります。本稿が扱うのは、その間にある具体的な承認待ちの解消です。

HUV DESIGN OFFICEでは、選ばれる理由を経営の判断基準として定め、社内で使える形へつなぐ支援を行っています。サービス内容をご覧ください。個別の決裁規程や契約権限の整備が課題なら、関係する専門家と検討してください。

すべての判断を現場へ移す必要はありません。会社として引き受けるリスクが大きい案件は、経営が判断する。任せる目的は、承認をなくすことではなく、必要な承認を見分けられるようにすることです。

参照資料

[1] OpenStax, Introduction to Business 2e, “7.4 Authority—Establishing Organizational Relationships”(2026年4月22日刊、2026年10月7日閲覧) https://openstax.org/books/introduction-business-2e/pages/7-4-authority-establishing-organizational-relationships

著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)

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