コラム2026.10.10

採用してもすぐ辞める——入社後、どんな仕事を誰が渡しているか

採用が決まったのに、仕事を覚える前に辞めてしまう。次の募集を急ぎたくなる場面ですが、同じ職場へ同じ渡し方で仕事を任せるなら、受け入れ側で起きていることも見直す必要があります。

「本人に合わなかった」「理念に共感していなかった」と結論づける前に、入社後に何を任せ、誰が教え、困ったときにどう対応したかをたどってください。採用時の説明が正しくても、仕事を担える条件が整っているとは限りません。

退職理由と、職場で起きたことを分ける

まず、職種と配属先を絞り、入社日、担当した仕事、指導者、相談の記録、退職時に本人が話したことを時系列で並べます。本人の説明と、上司の解釈は別の欄に残します。

退職した人だけでなく、同じ時期に入社して働いている人にも、協力を得られる範囲で聞きます。私生活や健康に関する詳細を回答の条件にせず、分からない理由は分からないままにする。一つの発言を、職場全体の原因へ広げないことです。

厚生労働省が2025年3月に発行した『人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集』は、中途・経験者採用を中心に、採用後の教育やメンターなどの支援を紹介しています。[1] 本稿の手順はそれを参考にした実務提案で、特定の支援を置けば離職を防げると証明された方法ではありません。

最初の仕事は、どこまでできればよいのか

受け入れ責任者と、最初に渡す仕事を一つ選びます。その仕事で顧客に何を約束しており、どこまでできれば任せられるかを、実際の作業で具体化してください。

  • 一人で行う部分と、先輩の確認が必要な部分
  • 判断に迷ったときの相談先
  • 間違いを発見したときの連絡と対応
  • 教える人が不在のときの代わりの担当

「経験者だから分かるはず」と、会社固有の条件まで省かないことです。自社の納期の決め方、顧客ごとの合意、品質の判定方法は、前職と同じとは限りません。

指導役を決めたら、その人が教える時間も確保します。通常の担当業務を減らせないなら、教えられる範囲を見積もり、任せる量や順番を変える。担当者の善意だけを受け入れ体制にしてはいけません。

顧客への約束を、社員が実行できる仕事にする

会社が「柔軟に対応する」と掲げても、新入社員には何を変えてよく、何を変えてはいけないかが分かりません。納期を相談するのか、仕様を変えるのか、責任者へつなぐのか。必要なのは、その場面で使える判断です。

顧客に約束する価値を、社員が覚える言葉で終わらせず、実際に担える役割、権限、支援へつなぐ。ブランド戦略を社内で使うとは、こうした仕事の渡し方まで考えることです。理念への共感を求めるだけでは、仕事を覚えるための条件を代替できません。

求人票と現場を照合する記事は入社前の説明を扱っています。本稿は、その説明を受けて入社した人に、仕事をどう渡すかという後の工程です。

次の入社を待たず、受け入れ側から変える

一つの職種で、最初に任せる仕事、指導役、相談先、振り返る時点を書き、本人と共有します。振り返りでは「慣れましたか」だけでなく、判断できなかった場面や、聞けなかったことを取り上げます。

実施した指導、相談への対応、同じつまずきが繰り返されたかを追います。面談回数だけを成果にしないでください。定着を見る場合は、対象職種、採用区分、入社時期を記録し、率の分母となる人数と観察期間を示します。まだ観察期間が短い人を、長期在籍を観察できた人と同じように比較しません。

賃金、労働時間、安全、ハラスメントなどの問題があるなら、その対応が先です。育成の工夫やブランド方針だけで解決しようとせず、労務などの専門家と進めます。本人が別の仕事や生活を選ぶ場合もあり、退職をすべて会社の失敗と決める必要はありません。

顧客への約束と現場の判断を揃える考え方は社内浸透の記事も参考になります。会社として約束する価値が曖昧で、仕事の判断へ落とせていない場合は、HUV DESIGN OFFICEの戦略設計と社内浸透の支援をご覧ください。採用代行や評価制度設計とは別の支援です。

参照資料

[1] 厚生労働省『人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集』(2025年3月。中途・経験者採用の情報開示と採用後の取組事例。企業の取組紹介であり、特定施策の因果効果を証明するものではありません。2026年10月10日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/content/001474492.pdf

著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)

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