コラム2026.10.10
売上は増えたのに利益が減る——次に増やす仕事を、売上だけで決めない
売上は前年を超えた。現場も忙しい。それなのに、決算を見ると利益が減っている。ここで営業に「もっと売ってほしい」と伝える前に、増えた仕事の中身を見たいところです。
売上を増やす方針が間違っていたと、すぐ決める必要はありません。原価が上がったのか、先行投資の費用が増えたのか、採算の異なる仕事の構成が変わったのか。原因を分けたうえで、次の受注をどう選ぶかを決めます。
減ったのは、どの利益か
中小機構のJ-Net21「損益計画の書き方」は、売上高から売上原価を引いたものを売上総利益、さらに販管費を引いたものを営業利益と説明しています。[1] まず経理担当者と、見ている利益の種類、比較期間、費用の計上方法を揃えてください。
前年同期間と比べて、売上、売上原価、売上総利益、販管費、営業利益を並べます。季節性があるなら、前月との差だけで判断しません。粗利の額と粗利率も別に見ます。率が下がっていても、粗利の額まで減ったとは限らないからです。
営業利益が落ちた理由が新拠点や採用に伴う費用の増加なら、既存案件の採算悪化とは違う判断が要ります。設備購入の支出と、その期間に計上される費用も分けてください。一方、利益が残っていても支払いが先に来る仕事はあります。手元資金の問題は、入出金予定で別に追います。
増えた仕事を、同じものとして扱わない
以下は、自社の記録を読むための実務提案です。受注済みの仕事を、同じ用途や提供範囲で比較できる群に分け、売上、原価、作業時間、やり直し、外注の利用を並べます。見積時の想定と完了後の実績も分けて残します。
見る順番は三つです。
- 同じ仕事の材料費や外注費が上がったのか
- 価格や数量、納期などの条件が変わったのか
- 手間がかかる仕事の割合が増えたのか
案件別に費用を配賦して比べる場合は、配賦方法を揃えます。作業時間を費用に換算するなら、すでに案件原価や配賦費用へ含めた人件費を二重に差し引かないでください。使った時間自体も別に残し、会計上の利益と社内の比較用指標を区別します。全社の費用を案件へ割り振った数字は、その案件を断れば同じ額が減るという意味ではありません。
この読み方を曖昧にすると、売上が大きい案件を優先し続けることも、逆に将来必要な仕事を早く切り捨てることも起こり得ます。
顧客が買っている価値と、会社が負担している仕事
採算が薄い仕事を見つけたら、値上げか撤退かを決める前に、顧客が何を評価しているかを聞きます。その負担は必要な価値を生んでいるのか。それとも、説明の不足や社内の手戻りで増えているのか。
評価されている仕事なら、価格、提供範囲、納期、工程の組み方を合わせて検討する。評価されていない作業なら、削れるかを調べる。ただし、顧客が口にしなかったことだけを根拠に、品質を支える工程まで省いてはいけません。
無料の追加対応を切り分ける話は料金に含める仕事の記事で扱っています。本稿で見たいのは、個々の追加対応を超えて、会社全体でどの仕事が増えているかです。
ブランド戦略も、この選択に関わります。誰の、どんな問題に応える会社でありたいか。その価値を継続して届けるために、どの受注と提供体制を増やすか。高く見せる言葉を足す前に、顧客の価値と自社の採算がつながる事業の選択が要ります。
次の受注方針を、一つ決める
将来の投資につながる仕事を、現在の粗利だけで切り捨てる必要もありません。赤字や負担を許容するなら、何を得るために、いつまで、どこまで負担するかを経営の判断として残します。
最初から全顧客の条件を変えず、一つのサービスで、新規の見積条件や営業先の優先順位を試します。責任者、試す期間、使える費用、見直す日を決めてください。
その間は受注数と売上だけでなく、実際の原価、工程の負担、粗利、顧客が条件を受け入れた理由を追います。納期や品質に無理が出れば、数字がよく見えても続ける判断はできません。既存契約の条件変更は、社内方針だけで一方的に行わず、合意を確かめます。
少数案件の結果で全社の方針を変えることも避けます。案件別の採算は配賦や見積もりに左右されます。資金不足が目前なら金融機関や財務の専門家への相談が先です。
対象顧客と提供価値を採算・現場の能力に結びつけて考えたい場合は、HUV DESIGN OFFICEの個別診断と戦略設計の支援をご覧ください。大口顧客への依存を考える記事は取引の集中、本稿は増やす仕事の構成を扱っています。
参照資料
[1] 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「損益計画の書き方」(売上総利益・営業利益の算式。起業時の計画作成資料であり、本稿の受注選択を検証した研究ではありません。2026年10月10日閲覧) https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list5/5-2-8.html
著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)
