コラム2026.09.28
営業の属人化をどう解消するか——担当者が不在でも進む仕事を増やす
担当者が休むと、見積もりの前提が分からない。顧客への回答が止まる。まず見たいのは、誰の売上が高いかよりも、その人がいないと何が進まなくなるかです。
営業の属人化を「選ばれる理由が言語化されていないから」と、一つの原因で説明することはできません。情報が残っていないのか、判断する権限がないのか、技能を引き継げていないのか。顧客との関係が担当者一人に限られていることも、点検の対象です。
目指すのは、担当者の個性を消すことではありません。顧客との約束を守るために、会社として継続できる仕事を増やすこと。以下は、そのための実務提案です。
不在時に止まる仕事を一つ選ぶ
直近の休暇、担当変更、問い合わせ対応の記録から、他の人では進められなかった仕事を拾います。見積もり、仕様の相談、納期回答、契約更新など、具体的な作業まで分けてください。
その作業について、どこで止まったかを調べます。
- 情報: 過去の合意、仕様、価格の前提が、他の担当者にも見つけられるか。
- 権限: 情報があっても、誰がどの条件まで決めてよいか不明ではないか。
- 技能: 判断に必要な技術知識や交渉の進め方を、代わりの担当者が扱えるか。
- 関係: 顧客が別の窓口を知っているか。社内の引き継ぎだけで済ませていないか。
この四つは点検用の分類で、原因を網羅した診断尺度ではありません。複数が重なる場合もあります。人員不足で引き継ぐ時間を確保できないなら、情報共有だけで解決しようとせず、業務量や配置も見直します。
米国NISTのBaldrige Criteria Commentaryは、知識管理について、業務に必要な知識の共有、役割と責任、共有の手順、適切な道具を扱っています。[1] 経営の評価枠組みであり、上の四分類や特定の施策の売上効果を実証した研究ではありません。
「選ばれる理由」は、判断に使えるところまで残す
共有資料に「品質が強み」と書くだけでは、どの依頼を引き受け、何を約束するかまでは決まりません。
対象となる顧客や用途、顧客が必要としている条件、その条件を実現できる根拠を、実際の案件記録と照らし合わせます。受注した理由は担当者の推測と顧客から確認できた内容を分け、失注や取引が続かなかった案件も見ます。
そのうえで、標準で引き受ける範囲、個別確認が必要な条件、約束できないことを決める。ここにブランド戦略との接点があります。会社が届ける価値と、現場が実行できる約束をつなぐ仕事です。説明文を整えるだけでは足りません。
提案ごとの説明の食い違いは、営業担当によって説明が違う場合の点検で扱っています。本稿では、その説明や判断を、別の担当者でも引き受けられる状態にすることに焦点を置きます。
資料を渡した後、別の人が進められるか試す
対象の仕事を一つに絞り、代わりの担当者が過去の案件を使って回答案を作ります。顧客へ送る前に、元の担当者と、参照した情報や判断理由を比べてください。
元の担当者が退職しているなど、本人に聞けない場合は、残る記録と関係部門から合意内容をたどります。推測で顧客への約束を補わず、未確認の条件と確認責任者を明確にしてください。
不足していたのが情報なら記録を補う。条件の解釈なら判断基準を直す。専門技能なら教育や同行の機会を設ける。権限がないなら、任せる範囲と相談先を経営側で決めます。
実際の引き継ぎでは、顧客にも窓口と役割を伝え、必要に応じて同席期間を置きます。顧客情報は必要な範囲で共有し、利用できる人と保管場所を決めてください。人間関係まで資料だけで移せるとは考えないことです。
受注後に営業から提供部門へ渡す内容は、顧客の期待を途切れさせない引き継ぎも参考になります。
成果は「資料ができたか」だけで決めない
試す前後で、対象業務の回答待ち時間、元の担当者への差し戻し件数、再説明や約束の訂正が必要になった件数を、同じ定義で記録します。作業を代われても、品質が落ちたり顧客に余計な負担をかけたりしていないかも見ます。
案件の難しさや件数が違えば、数字をそのまま比較できません。少数の試行から全社の効果を断定せず、何が進められ、どこで止まったかを次の改善へ戻します。受注率や売上が変わっても、市場環境や案件構成の影響を分けずに、属人化対策の成果とは言い切れません。
定着に必要な期間も一律には決まりません。資料の完成日ではなく、対象の仕事を別の担当者が条件どおりに進められたかで判断します。
HUV DESIGN OFFICEでは、提供価値と判断基準を定め、現場の運用につなぐ支援をご案内しています。課題が人員配置や専門技能の不足にあるなら、その対応も必要です。ブランド戦略だけですべてを解決すると考えず、まず止まっている仕事から着手しましょう。
参照資料
[1] National Institute of Standards and Technology, “Baldrige Criteria Commentary”, 4.2 Information and Knowledge Management(米国の経営評価枠組み。2026年10月15日閲覧) https://www.nist.gov/baldrige/baldrige-criteria-commentary
著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)
