コラム2026.10.23

AIの戦略案に納得できない——調べること、決めること、試すことを分ける

AIと相談して戦略案を作った。説明には筋が通っている。それでも、自分の会社でやるとなると納得できない。

そんなとき、さらに説得力のある説明を求める前に、何に引っかかっているのかを一文にしてみてください。「顧客が本当に求めているか分からない」と「求められていても、その仕事を中心にしたくない」では、次にすることが違います。

本稿は、AIで作った案を前に判断が止まった経営者に向けた実務提案です。特定のAI製品の能力や、導入効果を評価する記事ではありません。

納得できない理由を、三つに分けてみる

事実への疑問。 その顧客は本当に困っているのか。比較対象は実際に選ばれている会社なのか。ここは調査する問いです。資料の出所を確かめ、必要なら顧客や現場に聞きます。情報がない部分を、説明の自然さで埋めないようにします。

経営としての選択。 需要があったとして、その顧客を優先したいのか。今の顧客への対応を減らしてまで取り組むのか。これは事実を増やすだけでは決まらない問いです。守りたい約束、引き受けられる負担、今回は選ばない仕事を言葉にします。

実行条件への疑問。 方向には賛成だが、担当者や納期、対応範囲が定まらない。ここは提供条件を詰める問いです。人手不足なら、方針への理解を求めるだけで解決しようとせず、仕事を減らすか、体制を変えるかを決めます。

一つの疑問に複数の要素が含まれていても構いません。分類することが目的ではなく、次の行動を間違えないための分け方です。

「短納期を強みにする」という案なら

説明用の仮の案として、短納期を打ち出す戦略を考えます。実際の相談事例ではありません。

「顧客が速さに追加料金を払うとは思えない」という疑問なら、対象顧客が何の遅れに困っているか、現在どう対処しているか、予算や発注条件まで聞く余地があります。好意的な感想だけで、支払い意思を確かめたことにはしません。

「急ぎの案件を優先すると、既存顧客との約束を守れない」という疑問なら、調査より先に受注の上限や例外を検討します。需要があっても、引き受けない判断はあり得ます。

「特定の仕様なら対応できる」という話なら、その仕様に限定して試す選択肢ができます。全案件への短納期を約束する必要はありません。差別化の言葉を先に決めず、誰に、どの条件で、何を提供するのかまでつなげます。

試す前に、何を見たら考えを変えるかを書く

顧客の反応や実際の作業で確かめる必要がある場合は、試す範囲を限定します。次の五点を短く記録してください。

  • 疑っている前提は何か。
  • その前提を確かめるために、何を観察するか。
  • どんな結果なら案を見直すか。
  • 使える時間・費用・対応範囲はどこまでか。
  • 誰が、いつ、次の判断をするか。

事実への疑問で反対している人には、何が分かれば考えを変えられるかを聞きます。守りたい約束や事業の方向性が違う場合は、実験の結果だけで解消しようとせず、経営として何を優先するかを話し合います。ただし、反対意見をなくすための実験にはしません。案が合わないと分かった場合も、判断材料が得られたことになります。

少数の試行でうまくいっても、対象を広げたときに再現するとは限りません。反応がない場合も、相手、時期、条件が影響した可能性を残します。何も判断できなかったなら、成功・失敗に無理に分けず、残った疑問と追加で試す負担を比べます。

腑に落ちるまで、説明を増やし続けない

KPMGのセミナーレポートは、AIによる情報の探索・比較・構造化や仮説の展開と、人間が担う最終判断を区別しています。[1] これは同社による実務上の解説であり、本稿の手順の効果を実証した研究ではありません。

AIの案を採用するにも見送るにも、自社で引き受ける選択を残したい。納得を全員の賛成と同じ意味にせず、何を根拠に決め、どの疑問が残り、何が起きたら見直すかを共有します。

今回の到達点は、戦略書を完成させることではありません。止まっている案を一つ選び、「調べる」「経営として決める」「条件を限定して試す」のどれに進むかを決めることです。資金や提供能力に余裕がなければ、試さず保留する判断も含みます。

AIが出した強みを営業表現に使えるかは、根拠を点検する記事で扱っています。判断を会議の運用に組み込む場合は、経営会議の記事につながります。

対象顧客や提供価値について経営陣の前提が揃わない場合は、HUVの提供価値・ターゲット・選ばれる根拠を定める支援をご覧ください。AIの使い方そのものより、誰に何を約束するかという経営上の選択が支援の接点になります。

[1] KPMG「AIで進化する戦略策定・実行管理」(2026年10月13日公開、2026年8月のセミナーレポート) https://kpmg.com/jp/ja/insights/2026/09/ai-enhancement-of-strategy-formulation-and-execution.html 閲覧日:2026年10月23日。

支援内容:HUV公式サービスページ(同日閲覧)。

著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)

コラム一覧へ戻る