コラム2026.09.30
BtoB企業は顧客に「選ばれた理由」をどう聞くか——思い込みを減らす聞き取りの設計
著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)
結論
「なぜ当社を選びましたか」と一問だけ聞くより、何を解決したかったか、何と比較したか、誰が何を確かめたか、決める際に何を懸念したかを順に聞きます。顧客自身の言葉を記録し、営業側の解釈と分けてください。結果は「選ばれる理由」の仮説になりますが、数件のインタビューで市場全体の答えが出たとは扱いません。
ペルソナが機能しない原因では根拠不足を扱いました。本稿は、その根拠の一つとなる顧客への聞き方に絞ります。
聞き取りの位置づけ
米国中小企業庁(SBA)は、特定の事業や顧客について細かな理解を得る直接調査の方法として、調査票や深いインタビューなどを挙げています。一方で、直接調査には時間と費用がかかり得るとも説明しています。[1] BtoBの購買過程について、OpenStaxは課題認識、仕様検討、供給者探索、提案依頼、選定、導入後評価などの段階を整理しています。[2]
以下の質問順は、これらの資料を踏まえたHUVの実務提案です。資料が特定の質問票の有効性を証明しているわけではありません。
対象者を決める
まず、どの意思決定を改善したいかを決めます。新規顧客への提案を改善したいなら、最近受注した顧客だけでなく、失注先や選定を延期した先にも、協力を得られる範囲で聞きます。取引歴の長い顧客だけでは、初めて検討する顧客の疑問が見えにくくなります。
面談相手の役割も記録します。利用者、購買担当者、承認者の答えが異なる可能性があるため、一人の回答を組織全体の意見にしません。相手の協力は任意とし、個別の回答を公開・営業利用する場合は用途を先に伝えます。
質問は判断の順に並べる
1. 課題が生まれた場面
「検討を始めたきっかけは何でしたか」「その前はどう対応していましたか」。こちらが用意した課題名に誘導せず、当時の状況を聞きます。
2. 比較した選択肢
「ほかにどんな方法を検討しましたか」「現状維持や内製も候補でしたか」。競合名を先に読み上げないようにします。思い出せない場合は無理に答えを求めません。
3. 選定時の条件
「必ず満たす必要があった条件は何ですか」「候補間で差があった点は何ですか」。価格、品質、納期などをこちらから決め手だと断定しません。
4. 不安と確認資料
「決める前に不安だった点は何ですか」「社内で説明するとき、どの情報が必要でしたか」。提案書や契約条件で補える疑問と、実際の提供能力の問題を分けます。
5. 利用後の評価
「期待どおりだった点と、違った点は何ですか」。選定時の期待と導入後の経験を混同しないため、二つの時点を別々に記録します。
記録をブランド戦略に変える
回答は、顧客の発言/確認できた資料/担当者の解釈/未確認事項に分けます。「品質が良い」という発言があれば、何を根拠にそう判断したかを追加で聞きます。複数の回答に共通点が出ても、業種や案件規模が違うなら一つの型にまとめる前に条件を比べます。
最後に、「現在の約束と顧客の評価が一致するか」「評価された価値を社員が再現できるか」を検討します。提案書の記事は、分かったことを顧客の判断資料へ落とし込む際に役立ちます。
限界
協力してくれる顧客には偏りがあり、過去の判断理由は正確に思い出せないこともあります。回答は重要な手がかりですが、受注データ、失注記録、案件の採算、提供現場の状況と突き合わせてください。顧客が挙げた理由と、実際の受注を生んだ因果関係を同一視しないことも必要です。
まとめ
最初は対象サービスを一つ選び、異なる結果の案件から協力者を探します。共通の質問順で聞き、事実・発言・解釈を分けて残す。それが「選ばれる理由」を思い込みで決めないための出発点です。
参考資料
[1] U.S. Small Business Administration, Plan your business: Market research and competitive analysis(直接調査の方法と負担)。閲覧日:2026年9月30日。
[2] OpenStax, Principles of Marketing, 4.4 Stages in the B2B Buying Process(購買過程の整理)。閲覧日:2026年9月30日。
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