コラム2026.10.11
顧客が契約を更新しない——値引きの前に、続ける理由を確かめる
契約の更新時期が来たのに、次の発注が決まらない。値段を下げれば残ってもらえるのか。担当者との関係をもっと深めるべきなのか。
まず確かめたいのは、顧客が次の期間もその仕事を必要としているかです。必要な仕事がなくなったのなら、サービスの良さを説明し直すだけでは更新の理由になりません。必要性は残っているのに継続されないなら、提供内容、使われ方、価格、顧客側の判断を分けて調べます。以下は、継続支援や保守など、更新の選択があるBtoB取引の実務提案です。
解約理由を、営業の推測で埋めない
当初の依頼目的、合意した仕事、実際に提供した内容、顧客の評価、更新を見送った理由を一件ごとに並べます。顧客が話した理由と、担当者の解釈は別欄にしてください。返事がない案件も「価格が高かった」にまとめず、理由不明のまま残します。
聞く順番は、次の期間の課題、その課題に対して自社の仕事が役立った部分、足りなかった部分、継続の判断に必要な条件です。他社への変更だけでなく、内製化や取り組み自体の終了も選択肢に入れます。回答を求める際は、断った相手に説明の義務があるかのように迫らないことです。
米国NISTのBaldrige Criteria Commentaryは、失った顧客への聞き取りを顧客の声を集める方法の一つに挙げています。[1] これは経営の点検枠組みで、この質問順や更新率の改善効果を実証した研究ではありません。
次に残す仕事を、三つに分ける
記録をもとに、次の対応を選びます。
- 必要性がなくなった仕事は、終了や縮小を含めて考える。
- 必要だが期待を満たせなかった仕事は、不足を直せるか、体制と費用を見積もる。
- 提供はできているが判断材料が不足している仕事は、何をどう使い、何が変わったかを顧客と確かめる。
最後のケースでも、自社の活動量を並べるだけでは足りません。打ち合わせ回数と、顧客の仕事がどう変わったかは別です。顧客が評価したい結果を聞き、取得できる記録を決めます。売上など他の要因が混ざる結果を、自社の支援だけの成果にしないでください。
追加の相談が来ない問題は既存顧客への提案前の点検で扱っています。本稿の焦点は、いまの仕事を次の期間も続ける条件です。
更新率を上げることだけが正解ではない
継続されない理由に共通点があれば、対象顧客と提供価値を見直す材料になります。ただし、無理な条件で全件を引き留める必要はありません。顧客の求める結果を、利益と品質を保って提供できるか。できなければ、範囲の変更や終了も経営判断です。
ここでブランド戦略が関わるのは、更新案内の言葉を飾ることではありません。誰のどんな課題に応え続ける会社なのかを決め、その価値を提供できる体制と、顧客が判断できる記録をつなぐことです。顧客に選ばれた理由を聞く方法も参考になります。
次の更新対象から一つのサービスを選び、提示条件、顧客の判断、更新後の提供負荷を追ってみてください。更新率を見るなら、対象期間に更新期を迎えた契約を先に決め、そのうち更新した件数を数えます。新規契約は混ぜず、判断待ちの件数は別に示します。判断待ちが残る間は最終的な更新率とは扱いません。見送った理由も併記し、少数の変化から効果を断定しないことです。
顧客の予算削減や事業撤退は、ブランド施策で取り除ける条件ではありません。契約の終了手続きは個別の合意や適用法令に沿って扱います。提供価値と対象顧客、その判断基準を経営として見直したい場合は、HUV DESIGN OFFICEのサービス内容をご覧ください。
参照資料
[1] 米国NIST「Baldrige Criteria Commentary」3.1 Customer Listening(2026年10月11日閲覧) https://www.nist.gov/baldrige/baldrige-criteria-commentary
著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)
