コラム2026.10.12

製造業の新規開拓で営業先をどう選ぶか——設備より先に、受けたい仕事を決める

著者:入倉大亮(株式会社HUV DESIGN OFFICE 代表取締役)

新しい取引先を探そうとすると、自社にある設備や加工技術から、売り先の業界を広げたくなります。ただ、その設備で「作れる」ことと、相手の仕事を「引き受け続けられる」ことは別です。

最初に決めたいのは、訪問件数ではありません。どんな用途の仕事なら、自社の強みが顧客の判断材料になり、品質・納期・採算を守って提供できるか。その条件です。条件が曖昧なまま営業先だけ増やすと、商談が増えても、受けるべき仕事を選べません。

「どの業界か」の前に「どの仕事か」

同じ業界でも、試作を急ぐ仕事、量産の安定供給を求める仕事、設計変更への対応が多い仕事では、必要な体制が違います。まず直近の案件から、利益だけでなく、見積もりにかけた時間、手戻り、品質対応、納期変更を振り返ります。数字が揃わなければ、分かる範囲から記録し、後で案件を比べられるようにします。

次に、狙う仕事を一文にします。たとえば「小ロットに対応できる」ではまだ広い。誰が、どの用途で、何に困り、なぜ自社の対応が役立つのか。過去の受注実績は手がかりになりますが、その顧客が今も同じ理由で発注するとは決めつけません。可能なら顧客に選ばれた理由を聞く手順で確かめます。

営業先の候補を四つの条件でふるいにかける

候補企業を集めたら、社名や業種だけで優先順位を付けず、次を一社ずつ見ます。

  1. 用途の接点:相手が使う製品や工程に、自社が引き受けたい仕事はあるか。公開情報で分かることと、商談でしか分からないことを分ける。
  2. 示せる根拠:要求されそうな品質や対応範囲について、実績、試験結果、工程管理など、開示できる資料はあるか。守秘義務のある顧客名を営業材料にしない。
  3. 提供の余力:試作、量産、変更対応のどこまで引き受けるか。営業が約束する前に、現場と条件を合わせる。
  4. 採算と継続性:初回の売上だけでなく、段取り替え、検査、追加対応を含めて採算が合うか。見込みは見込みとして扱う。

これは案件を機械的に点数化する表ではありません。分からない項目は「未確認」と残し、営業の最初の質問に変えます。たとえば品質要求が合わないなら、説明文を磨く前に、対応するか、対象から外すかを経営で決める必要があります。

中小企業基盤整備機構のJ-Net21は、法人向けカスタム品の新規開拓について、商品特性、対象、投入できる人員・時間・費用に応じて顧客リストの作り方を選び、実際の反応を見ながら見直すと説明しています。これは成果を検証した統計ではなく、リスト作成についての実務助言です。ここで提案した四つの条件は、その資料の引用ではなく、HUVが経営と提供現場をつなぐための判断案です。出典:J-Net21「新規ターゲット顧客企業リストの作り方を知りたい。」(2021年10月18日)

小さく試し、断る理由も残す

候補を絞ったら、まず少数の企業に接触し、相手の用途、必須条件、社内での検討時期を聞きます。面談件数だけで成否を判断せず、「課題はあったが能力が合わない」「能力は合うが窓口が違う」「条件は合うが採算が取れない」と、進まなかった理由を分けて残します。接触数、用途が合った件数、見積もりまで進んだ件数と、実際に受けられる採算を分けて見ます。そのうえで、問いかけ方、対象、提供体制のどこを変えるか決めます。反応が少ないだけで、その市場に需要がないとは言えません。

相手がまだ求めていない価値を、こちらの「強み」として押し込まないことも大切です。比較相手が同業他社とは限らない場合は、顧客が検討する選択肢を調べる方法も参考になります。

新規開拓の反応が悪い理由が営業手法だけにあるとは限りません。逆に、設備の不足、認証、価格、供給能力が障害なら、ブランド戦略だけでは解決しません。顧客に約束する価値と、それを現場で再現できる条件を一緒に決める。その部分に、ブランドを経営の仕組みとして扱う意味があります。

HUV DESIGN OFFICEでは、市場と顧客の選択、選ばれる理由の整理から、営業などの接点への実装までをサービスとして扱っています。新規開拓の対象を定める前に、自社が何を約束できるかを見直したいときの相談先としてご覧ください。

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